ランニング言いたい放題

日本ベアフットランニング協会公認コーチ、Vibram FiveFingers トータルアドバイザー。走るのが好きな人|裸足で走ったりケニアで走ったり|メインテーマは『ケニア人ランナーの動きの再現』です。お問合せ:hadashi.rc@gmail.com。by須合拓也

平らな地面とシューズが体を歪めていく

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今回は姿勢について書きたいと思います。

 

ケニアに滞在していた時にふと気になったのですが、みんな姿勢がいいのです。

 

背筋が伸びているわけでなく、力は抜けているが猫背にもなっていないように感じました。

骨盤は前傾でお尻が出て腰は反り、背骨がS字を描くように曲がっています。

そして足のラインは垂直に立っています。

足の真上に上半身が置いてある感じです。

 

対して日本人の姿勢は骨盤は後傾し、腰や下っ腹が前に出て足は斜めになり、背中は全体的に丸くなっている方が多いで印象です。

下半身に力が入っていて、上半身を支えています。

足を広げて踏ん張っているイメージですね。

特に男性に多いです。

「立ちっぱなしだとふくらはぎがパンパンになる」とよく聞くのはこれと無関係ではないでしょう。

 

この差は何から来るのか説明してみます。

 

まず人間は何故まっすぐ立っていられるか、考えたことはあるでしょうか。

専門の分野ではいろいろな見方があり深堀するときりがないので簡単に姿勢制御を大まかなプロセスに分けると以下のようになります。

  1. 現在の体の状況を各感覚器官が知覚。
  2. 脳や脊髄が情報を統合して全身の筋肉に対して指令を出す。
  3. 指令を受け取った筋肉が働いて姿勢を矯正。

この繰り返しで姿勢を制御しています。

なので人は立っているときに微妙に揺れています。

 

感覚器官には主に

  • 視覚
  • 前庭感覚(わかりやすく言うと三半規管です)
  • 体性感覚(触覚・圧覚・温覚・冷覚・痛覚などの皮膚感覚と、手足の運動や位置を伝える深部感覚の総称)

に分けられます。

 

ようは目とか耳とか体の位置感覚や足裏などの感覚器官という各センサーが情報を出し、脳が統合・判断して、全身の筋肉に指令を出すということです。

 

こうして人は地面の上に立っていられるわけですが、ケニア人と日本人では立ち方に差があります。

 

ケニアはいまだに整地された土地が少なく、生活に使われる道路のほとんどは日本では考えられないほど凸凹になっています。

車で走るとサスペンションが壊れるのではないかと思うほど道路状況です。

アスファルトがあるのは幹線道路か、町の中心部だけです。

とにかく、ケニアでは平らな地面はほとんどありません。

 

また履いている靴も古いものである場合が多いです。

当然足を補助・保護してくれるのは期待できません。

足裏に穴が空いていることもありました。

 

こういう条件だと下半身、特にふくらはぎで地面を踏みしめて立つということが難しいです。

地面に凹凸があり滑りやすくもあるために踏ん張りにくいですし、シューズも粗末なものが多いので踏ん張ると痛いという側面もあります。

 

その為、踏ん張らないように自然と足の真上に体を持ってくるように体幹が動きます。

重力の方向に沿って素直に立っているとも言えるでしょう。

これなら地面の状況やシューズの状態に関係なくまっすぐ立つことが出来ます。

何せどんな時でもリンゴは真下に落ちますから。

 

日本人の場合はケニア人とは環境がことなります。

 

平らに舗装された滑りにくいアスファルトがほとんどで、シューズもずっといいものを履いています。

穴開いたら買い替えますしね。

 

上記の環境下では視覚が優位になりやすいです。

視覚情報は地面が平らであると認識しているため重力を感じる三半規管はあまり使われず、足裏はシューズに覆われているために情報量が少なくなりがちです。

 

これが実は非常に厄介だと考えています。

 

視覚は錯覚しやすい感覚器官です。

普段歩いている道路のほとんどが傾いていることはご存知でしょうか。

道路は雨が降ったとき水が流れやすいように傾きがあるのです。

そういった細かな水平を感じ取るのに視覚は全く向いていません。

こういうのは三半規管や足裏の仕事ですが、視覚優位であるために傾いていることに気が付きにくくなっています。

余りにも大きく傾くとようやく三半規管や足裏が信号を出すので倒れることはありませんが、ケニアの環境に比べると立っているときの揺らぎは当然大きくなります。

 

更に、平らで踏ん張りやすい地面とどんなに力を入れても痛くない高機能なシューズの組み合わせは、姿勢制御をより筋肉に頼ったものになりやすくさせます。

つまり踏ん張りやすいがために姿勢を元に戻すのに末端のふくらはぎで地面を踏みしめるようにしてしまうのです。

 

恵まれた環境では非効率であってもとりあえず立ててしまいます。

そんな環境では人間の姿勢制御のシステム全体が甘くなっていっても当然ではないでしょうか。

 

より簡潔に例えるなら重力に従って素直に立てば一番効率が良いところを、日本人は傾いたジェンガを両手で押さえるようにして立っているのです。

 

運動していない日本人でも下半身、特にふくらはぎが太くなる傾向にあるのは、環境がそうなるように促しているからともいえます。

 

感覚器官が十全に働かないため揺らぎが大きく、常に垂直に働く重力に従わずに筋肉の微妙な出力に頼って立っている日本人は姿勢が悪くなりやすく、癖もつきやすいために体の各所に歪みが出ても当然だと言えるでしょう。

 

これこそ表題にあるように「平らな地面とシューズが体を歪めていく」と言える理由になります。

 

参考文献

 

・姿勢制御のしくみとリハビリテーション

・感覚と姿勢制御のフィードバックシステム(https://www.jstage.jst.go.jp/article/sobim/39/4/39_197/_pdf