ランニングにおけるリラックス②~ケニア人の動きの中のリラックス~
前回の記事(ランニングにおけるリラックスと、リラックスする具体的な方法)でランニングの際のリラックスについて一応の定義づけと走るときのリラックスについて触れましたが、その続編にあたります。
前の記事ではランニングのリラックスについてかなり簡略化して筋肉だけを見て話を進めましたが、それを更に深堀していきたいと思います。
走るときの筋肉の動きをかなり簡略して、前進するときに使う筋肉群と止まるときに使う筋肉群の差によって前進すると考えるえましたが、運動の際にもう一つ外してはならない要素が肉体には存在します。
それは『腱』です。
腱とは筋肉が骨に付着する部分にある、筋肉と骨を結合させている繊維です。
きわめて強靭で弾力性の高い繊維なので、簡単に超強力ゴムバンドみたいなものだと思ってください。
(参考リンク:腱 - Wikipedia)
アキレス腱なんかはわかりやすいと思うのですが、走ったりジャンプしたりするときに伸び縮みして運動エネルギーに変わります。
腱は筋肉の両端についているものなので、人間は全身ゴムバンドでくるまれているようなものです。
ただし、普通のゴムと違い筋肉によって自在に伸び縮み、ゴムでいう弾性の強弱がコントロールできます。
なのでスムーズに運動することが出来るのです。
(本当に全身強力なゴムバンドでくるまれていたら全く動けなくなるでしょう)
筋肉の部分で伸び縮みの強弱をコントロールできるという点が今回のポイントです。
前回、姿勢を維持しているときに前後方向だけを考えて、前側と後ろ側の筋肉が強く働いて釣り合ってしまっていると、動くときもアクセルとブレーキを同時に踏んでいるように無駄が多いと書きました。
実際その通りなのですが、それに腱の要素も加えて考えていきます。
下の図を見てください。
簡単に腕の運動を模した図です。
丸い部分が肘で上の方が上腕、先の方が前腕です。
オレンジ色が腱と筋肉です。
腕をゆっくり曲げ伸ばしするときは単純に筋肉が伸びたり縮んだりするだけです。
曲げ伸ばしを速くやるときが腱が関わってきます。
肘を曲げた状態(A)から肘を伸ばし切った状態(C)にした後すぐにまた肘を曲げた状態(A)に戻すことを考えます。(A→B→C→B→A)
肘を素早く伸ばすときは筋肉が脱力しますが、曲げた状態と伸ばした状態の中間(B)に筋肉に少し力が入れて縮む方向に働くと、その分腱が多少伸びはじめます。
そして肘を伸ばし切った状態(C)になったときは腱も伸ばされています。
ちょうどゴムを伸ばした状態と同じで、腱は強力に縮もうとします。
同時に筋肉も力が入り縮むので相乗効果により一瞬で肘を曲げた状態(C→B→A)に戻ることができるのです。
これは肘の曲げ伸ばしのスピードが速く、ある程度の反動が腱にかからないと腱は働きません。
そして、筋肉の働くタイミングもずれてしまうと速く、スムーズに動くことは出来ません。
もし、肘を曲げた状態(A)から動き始めてすぐに筋肉を働かせてしまうと肘を伸ばし切る(C)前に止まってしまうでしょう。
逆に筋肉に力を入れるタイミングが遅いと肘を伸ばし切った状態で腱が働かず、素早く帰ってくることが出来ないでしょう。
また、腱の伸び縮みのエネルギーを利用せず筋肉だけで素早く肘の曲げ伸ばしすることも可能ですが、その場合は肘を曲げて伸ばして曲げる、の一連の動作の間中筋肉が働いていなければならず、非常に効率が悪いです。
腱を利用することのもう一つのメリットが腱自体は伸び縮みしてもエネルギーを消費しないことです。
つまり腱の特性とその働きも含めてタイミングよく絶妙に筋肉を働かせることが素早く効率的な動作につながるということです。
これが動きの中におけるリラックスです。
腱も上手く使うことによって力はいれているように見えないのに素早く動くことが出来、結果効率も良いというものです。
これを普段の動作の中で非常によくできているのがケニア人です。
彼らは日常的にダンスをしていることからリズム感だとかタイミングを上手くつかむことが得意です。
彼らのダンスでやる動きは力が入っているようには見えないのに、リズミカルかつ変則的・アクロバティックでまるで体がゴムまりの様に跳ねるので、日本人にはなかなかマネできません。
また肉体労働が多いこと、高地で道が悪く食糧事情も決して良くないことから、体中の腱を上手く使って効率よく動けないと生きていけなかったからとも考えられます。
ケニアに滞在していた時に水道が切れ(よくあることです)、水をタンクから直接汲まないといけなかったことがありましたが、彼らは私より細い手足で重いバケツを素早く、軽々と持ち上げてました。
今思えば肉体労働に慣れているだけでなく、腱の使い方が日本人とは比較にならないほど上手いのでしょう。
いや、日本人も食料事情の良くなかった昔の肉体労働者は出来ていたのかもしれません。
ケニア人は腱が強いということで知られていますが、これは日常的にそのような動きをしているから腱が発達したのだと推測できます。
腱の発達には運動が必要とのデータもあるので、日本人でもそのようにトレーニングを行えば再現は出来ると思います。
(参考リンク:腱の発達には運動が必要だと解明 遺伝子レベルで解明)
これはジムでよくやる重りを単純に持ち上げるトレーニングではなかなか鍛えられない感覚です。
どちらかというとダンスのようなリズムと瞬発力が求められる動作やボックスジャンプのようなプライオメトリクストレーニングによって鍛えられるのではないかと考えられます。
腱が伸びたり縮んだりする感覚は恐らく一般的な日本人の生活ではあまり使わないので、初めはわからないと思いますが、この感覚を覚えることはランニングに決してマイナスではないと思います。
興味を持たれましたら一度チャレンジしてみてはいかがでしょうか。