ランニング言いたい放題

日本ベアフットランニング協会公認コーチ、Vibram FiveFingers トータルアドバイザー。走るのが好きな人|裸足で走ったりケニアで走ったり|メインテーマは『ケニア人ランナーの動きの再現』です。お問合せ:hadashi.rc@gmail.com。by須合拓也

上り下りを走る時に最適な重心位置の考察

にほんブログ村 その他スポーツブログ ランニングへ ←面白かったらポチお願いします。

いつも走っているランナーであっても急激な上り坂、或いは下り坂が好きな方はあまり多くないと思います。(因みに私は結構好きです)

理由としては走るのが辛かったり、スピードが出て怖かったりだと思われます。

 

 

今回はそんな急な上り下りを走る時、少しでも楽に、もしくは安定的に走れるような最適な重心の位置についての考察を述べたいと思います。

 

勿体ぶるのもアレなので最初から結論を書きます。

上り下りを走る時の最適な重心の位置は「平地を走る時よりも低めの位置」です。

 

結論だけ知りたいという方はおめでとうございます。
もうブラウザバックしても大丈夫です。

 

何故この結論に至ったのか気になる方は長くなりますがお付き合いください。

 

まずは上り坂を走る時から考えます。

 

上り坂を走るのは平地と違って重力に逆らう必要があります。

この構図を単純にモデル化すると足元にあるダンベルをもち上げる動作と一緒です。

つまり上り坂を走ると動作はダンベル(=自分の体)を持ち上げる動作の連続に近しい、 ということになります。

 

ではダンベルを持ち上げるときに高重心と低重心のどちらが良いかと言いますと、やってみるとわかると思いますが低重心のほうが体全体が安定しているので力が入りやすく、ダンベルをあげやすいです。
(何故重心が低いと安定するかは重心と力学的安定性(義肢装具士のための基礎力学)

の解説が非常にわかりやすいので是非見てください)

 

上り坂において高重心でも低重心でも登らなくてはいけない高さは一緒です。

言い方を変えると重心の位置がどこにあっても上り坂を上りきるのに必要な位置エネルギーは変わりません。

位置エネルギー = 重さ(自分の体重) × 高さ(上り坂の高さ)』です。

なのでその位置エネルギーを最も稼ぎやすい低重心が最適解だと思われます。

 

※注意:ここで言う低重心とは『比較的』重心が低い姿勢のことです。あまりにも重心を低くすると姿勢が崩れてかえって力が入りにくくなるため逆効果です。低重心の姿勢については後述。

 

ちょっと話が外れますが、同じ理屈で上り坂を上る時は足の裏全体をなるべく地面につけていたほうが安定して力を出しやすいため、おススメです。

上り坂になるとついついつま先だけ地面について踵が浮いてしまいがちですが、不安定ですし姿勢の維持にも力を使ってしまうため非効率的です。

 

上り坂の説明は以上です。

次は下り坂です。

 

冒頭で述べたように下り坂でも低重心が最適だと考えますが、その理屈は上りとはまた異なります。

 

下り坂は位置エネルギーが運動エネルギーに変換されるので、端的に言えば勝手にスピードが出ます。

人間が自身の姿勢を制御できる速度には限界があるので、これを超えてしまうと転倒してしまいます。

なので安定して姿勢を制御しやすい低重心のほうが良いです。

 

人間の制御できる速度がどのくらいかは厳密にはわかりませんが、ちょっと考えてみましょう。

 

平地で人が走ることの出来る速度ですが、例えばマラソンの世界記録の速度は時速20kmちょっとで、ウサイン・ボルトのトップスピード(最も速いときの速度)で時速約45kmです。

走る人が姿勢を制御できる速度は身体能力によっても大きく左右されると思いますが、どんなに優れた選手でも時速45km未満なのではないかと思います。

なぜならボルトの速度はスピードを出しやすいタータントラックという特殊な人工の環境で、タータン専用のスパイクを履いた上でやっと出すことができた瞬間速度です。

それを下り坂という不安定な場所(これがロードではなく更に不整地であるトレイルならなおさら)で姿勢を保ちながら速度を出し続けるというのは至難の業ではないでしょうか。


むしろ時速20kmを維持でもかなり速いのではないかと思います。

まあ速度に関しては多数の要素が絡まってくるため一概に言えませんが。

 

話を戻します。

 

下り坂を走るにあたって、上記とは別の視点として衝撃の問題があります。

特にこれは傾斜が一定ではない不整地のトレイルを走る時に重要なポイントになってきますが、急激な下り、いわゆる急登と呼ばれるような場所では1歩で50cmとか1mを超える落差も存在します。

その落差を高重心で落ちた時と低重心で落ちたときとでは衝撃の強さが全然違います。

これは局所的で特殊な体の使い方になりますが、例えば1mの落差をしゃがむくらいに体を屈めて超低重心で落ちた時と、平地をトップスピードで走る時のような高重心で落ちた時だと落下速度が全然違います。

この時の身を屈めた超低重心の時の重心の高さを30cm、高重心の時の重心の高さを1mとし、また落下後の姿勢とどちらの場合も同じ姿勢をとるとして、その時の重心位置の高さを80cmとします。
以上の条件をもとにそれぞれ落下の速度を計算すると

 

超低重心の場合

高さ(落下距離)=1m(段差)+ 0.3m(重心位置)- 0.8m(落下後の重心位置) = 0.5m

[重力加速度 9.80665 m/s2 ]

落下速度=約11.3km/h

 

高重心の場合

高さ(落下距離)=1m(段差)+ 1m(重心位置)- 0.8m(落下後の重心位置) = 1.2m

[重力加速度 9.80665 m/s2 ]

落下速度=約17.5km/h

 

(こちらのサイトで計算しました:自由落下(距離から計算) - 高精度計算サイト

 

超低重心と高重心との速度差は時速6.2km、倍率にすると高重心は超低重心の時の約1.5倍の速度になります。

この差を大きいと思うか小さいと思うかは人それぞれだとは思いますが、この速度は真下への落下速度なので、衝撃も比例して大きくなることを考えたら、なかなか無視できない数字だと私は考えています。

 

もし疑問に思う方は実際に試してみてください。

私はとてもじゃありませんが高重心で落下するのはとても怖いので実証することはできませんが。

 

超低重心での落下は若干特殊ではありますが、とりあえず下り坂でも低重心がいいとする理由は以上です。

 

最後に具体的に低重心の取り方を説明して終わりにしたいと思います。

低重心といっても方法はいろいろあるのですが、変に重心を落としたり、低重心すぎるとそれはそれでパフォーマンスが当然落ちます。

超低重心の説明であったしゃがむくらいに屈めながら走ることは逆に非効率です。

 

ではどのように低重心にしたら良いかというと私のおすすめは肘を伸ばして下げることです。

これだけで重心の位置は下がります。

そして肘を伸ばすのは例えば腰を落としたり、背中を丸めたりするよりも走るのに影響しません。

元々それほどスピードが出せない上り坂や、自分からスピードを出すわけではない下り坂ではなおのこと影響が少ないです。

肘を伸ばすのも完全に伸ばしきるのではなく、多少曲がっている状態(角度で言うなら120°から150°くらい)だと腕振りがやりづらいこともないかと思います。

 

以上で今回は筆を置きたいと思います。

是非一度試してみてください。

 

 

 ↓記事が面白かったらご支援いただきたいです。

runner-takuya-sugo.hatenablog.com