ダンスはケニア人に何を与えるか
前の記事(ケニア人は踊るように走る - ランニング言いたい放題)でケニア人ならば猫も杓子もダンスができると書きましたが、それがケニア人にとって一体どのような影響があるのか、ダンスによってランニングフォームがどうなるのか、参考文献も交えつつ私の考えをまとめたいと思います。
(ページ下部にも記載しておきますが、この記事は故七類誠一郎氏著作の「黒人リズム感の秘密」を参考としております。)
ケニア人をはじめとするアフリカ系のダンスは体幹、より詳細に言うと背骨を波打つようにしならせて動かします。
彼らにとってダンスは生活の一部です。
日常的に何かお祝い事があれば即興で踊ります。
そのダンスによってケニア人は以下の能力を獲得するに至っていると考えられます。
始めにリズム感です。
背骨を波打つようにしならせて動かせる彼らは体幹でリズムをとることができ、そのリズムは乱れることがありません。
なぜなら波というのは周期が決まっており、早い遅いはあれど必ず一定の間隔を保つからです。
わかりにくい方はタオルで実験してみるとよいでしょう。
タオルの端を手で持って下に垂らした状態で、手を横に揺らすとタオルが波打つのがわかります。
これがエンピツだと全く波打ちません。
せいぜい振り子のように振れるだけです。
人間の背骨も構造的にはエンピツよりもタオルに近いです。
約30個の椎骨と間にある椎間板により前後左右自在にしなり、タオルのように波打つことが出来ます。
次は動的柔軟性です。
アフリカ系のダンスはリズムにのって瞬発的に大きく動く要素が強いので、その際に体の各部分の可動範囲が狭いと動いているようには見えないし、スピードも出ないのでダンスになりません。
子どもの時から習慣的にダンスしているケニア人は、動くときの体全体の可動範囲=動的柔軟性が養われるために、その能力が日本人に比べてとても高くなっています。
動的柔軟性は同じ柔らかいでも体操選手のように開脚して胸が地面につく、といった静的柔軟性とは性質が異なります。
静的柔軟性は要素に瞬発力を伴いませんので、ランニングなど速い動きの中では重要ではありません。
3つ目は弛緩と緊張のコントロールです。
こちらは動的柔軟性でも触れたように、ダンスでリズムにのって瞬発的な大きい動作を可能にするには、瞬間的に筋肉の緊張と弛緩をうまく繰り返さないといけないため、この能力が身につくと思われます。
つまりは必要な部位に必要なタイミングで力を出したり、逆に不要な部位は力を抜いておくという能力になります。
これは瞬発的なスピードを出すことを可能にするだけでなく、無駄な力を使わないために持久力の面でも有利になると考えられます。
4つ目は動的バランス感覚です。
瞬発的に大きな動きをしたときに、もしもバランス感覚が悪かったら反動を抑えきれず転倒してしまいますね。
そのためか、ケニア人は激しい動きの中で体の重心をコントロールする能力にも優れています。
これはランニングにも大きく影響してきます。
ランニングとは物理的に表すと重心を前に移動しつづける動作です。
動的バランス感覚が優れていると、重心をスムーズに移動できます。
より楽に走れるということです。
ケニア人が走るときに前傾姿勢になっているのは動的バランス感覚が優れているからでもあります。
日本人が前傾姿勢をすると倒れすぎたり逆に前傾が足りなかったりして、姿勢維持のために余計な力を使ってしまいます。
ひどい人は腰痛や椎間板ヘルニアになったりもします。
最後は発達した体幹・小さく前後に長い頭・長い手足ですね。
これは完全に私の予想ですが、ダンスを代々受け継いできたケニア人は、その体もダンスに適応したものになってくるでしょう。
先祖が体幹をよく使うのであれば、子孫は自然と体幹が発達した人になるということです。
同じようにダンスで頭を振るなら、頭が大きいよりも小さい方が楽に振れるのでそうなっていくでしょうし、縦に長いよりも前後に長い方が速く振れるからそうなるでしょう。
体幹で動く習性では逆に末端は使わないので手足の先の筋肉はつかないし、その分骨が成長しやすいから手足が長くなったのではないでしょうか。
ケニア人も日本人もルーツは同一の動物なので、現実で肉体的な差が出ている理由を想像してみましたが、なかなか矛盾の無い仮説ではないかと思います。
以上がダンスによってケニア人が獲得したと思われる能力でした。
一つ一つはもっと深く説明すべきだと思いますが、それをするとかなりの長文となってしまうため、そのうち個々の要素についても詳しい記事をまとめたいと思います。
参考文献
七類誠一郎「黒人リズム感の秘密」1999年