他のスポーツにはないエリートランナー特有の走り方
テレビなどで大きなマラソンのレースを見ていると、トップレベルのエリートランナーは凄い速さで42kmを走っていて、超人の様に感じますよね。
今回は他のスポーツにはない陸上競技のエリートランナー特有の走り方について書いていきたいと思います。
野球やサッカーなどの球技をはじめとしたスポーツと走ることを専門とするランナーの走り方は異なります。
それは何故かと言うと、陸上競技の競技特性から話す必要があります。
皆さんはサッカーのフィールドの長さをご存知でしょうか。
国際大会のレギュレーションでは最大110mとなっています。
ではラグビーはどうでしょうか。
ワールドラグビー競技規則によるとラグビー場の長さは100m以内と決まっているそうです。
(World Rugby Laws - World Rugby's Law Education Web Site: Law 1: The ground)
次はバスケットボールにしましょうか。
バスケットボールのコートは競技規則で長さ28mと決まっています。
(競技規則 - バスケットボール | molten モルテンスポーツ事業本部)
最後に野球で見てみましょう。
野球の塁間、各ベースからベースの間は約27.4mで、1周すると約109.6mほどになる計算になります。
各スポーツのフィールドの大きさをあげましたが、長くて100m少しとなり、選手たちはこのフィールドの中で動きます。
つまりそれ以上選手たちは走ることはありません。
実際の試合の中ではより短いでしょう。
サッカーの試合で全力疾走する距離は長くてもフィールド半分の距離、せいぜい50mほどでしょう。
野球であればたまに2塁までの距離、約54m。
ごく稀に3塁まで、約82m。
ラグビーであってもハーフウェイラインから走って50mほどになります。
バスケットボールはコート自体が短いので、長く走っても30mいかないですね。
どの競技でも50m以下のダッシュと言えるような距離がほとんどです。
それに比べると陸上競技のトラック種目は最も短い距離であっても100mあり、他のスポーツから見るとずいぶん長い距離を疾走しています。
短距離選手ですら、他のスポーツから見ると長距離なのです。
陸上競技のランナーは高速の状態を維持して走ることが重要になってきます。
それは短距離選手であっても長距離選手であっても共通していることです。
(長距離専門の私の目から見ても短距離選手と走り方は雲泥の差があり、恐らく短距離専門の方も同じように考えていらっしゃるでしょうが、ここでは他競技と比較した、かなり大雑把な共通点のみ上げていますので、その点ご容赦ください)
この高速状態を維持して走ることに対して、専門の用語が無いので、便宜的に自動車やバイクでおなじみの”ギア”を使って説明したいと思います。
他のスポーツでは50m以下のダッシュがほとんどで、この距離で重要になってくるのは加速力です。
そうなってくるとストライドは短く、高回転である方が断然に有利です。
車で言うところの低速の軽いギアがメインとなります。
低速ギアのメリットは加速に優れるだけでなく、方向転換もしやすいことにあります。
常に相手やボールがあり、状況によって前後左右上下に目まぐるしく動く必要がある球技では必要なことでしょう。
また、陸上選手に比べて体重のある他のスポーツ選手にとっては加速力が無いと動けません。
体重があり、加速力があることが大きな武器となることでしょう。
では陸上選手の場合はどうなるでしょうか。
短距離選手は加速力も重要な能力ですが、先ほど書いた高速を維持する能力も同じくらい重要です。
つまり高速の重いギアです。
高速ギアは加速力はありませんが、少ない力でも大きく進むことができ、効率的にスピードを維持できます。
他のスポーツと比べピッチは少なめでその分ストライドが長いことが特徴です。
長距離選手であればこの能力が特に重要です。
そのためダッシュが遅い=足が速いとは言えない選手が活躍できる要因になります。
フルマラソンの世界トップクラスの平均速度が時速約20km、50m換算で約9秒になります。
50mをこれよりも速く走れる人は一般の方でもたくさんいますが、そのほとんどはこの速度を1km維持することも難しいでしょう。
(ちなみに上記は1km3分ペースになります)
陸上選手のエリートランナーとは、優れた高速ギアを持つ選手と言えます。
陸上選手がどのようにしてこの能力を身に着けるのかというと、一つは練習の中です。
長距離選手であれば1000m以上のインターバルやペース走、快調走などが高いギアの感覚を掴むのに最適な練習と考えます。
要するに、速いペースを長時間維持しているなかで、足を軽く大きく長く飛ばす感覚を掴み、効率的な高いギアの動きを自然獲得させているということです。
(逆に低速ギアのイメージは自転車のペダルを回しているようなものです)
或いはもともとこの動きが出来ている適性の高いランナーと一緒に走ることでその動きをコピーするような形で身に着けることも多いでしょう。
多くの場合、集団で長い時間練習する陸上競技部だからこそ可能なことだとは思いますが。
また身体が軽いということも条件の一つです。
重い体では高速ギアの加速度で進むこと、速度を維持することの両方が難しいです。
あとは生まれつきの要素になってしまいますが足が長いことです。
同じ体重でも足が長い方がエネルギー当たりのストライドが長くなるため、当然この高速ギアの動きを身に着けやすいです。
この高速ギアの概念を他のスポーツ選手や市民ランナーの大多数はもっていません。
なので、走りを見れば陸上競技部出身のランナーかどうか大体分かります。
そしてこの高速ギアを持たないランナーは、持っているランナーに比べて、ポテンシャルで優っていてもレースでは負けてしまうことも少なくないでしょう。
これこそ陸上競技ランナー特有の、もっと言うとギアの能力こそトップクラスのエリートランナーがエリートたる所以だと私は考えています。
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